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【第4回】地下構造物の躯体防水 ――湧水条件別の対策と「逃げ場のない水」への処方箋

~公的仕様書に基づく「弱点」の克服と、責任施工の真価~
株式会社日本ザイペックス
代表取締役 笹島 弘隆
はじめに:地下防水こそ、
建設現場における「最大の難所」
これまでの連載では、コンクリート防水の基礎やLCC(ライフサイクルコスト)について解説してきました。今回は、設計・施工の現場で最も判断が難しく、トラブルが頻発する「地下構造物の防水」に焦点を当てます。
設計や施工の現場において、常に品質の拠り所となる日本建築学会の『建築工事標準仕様書』(※参考1)においても、地下防水は維持保全が困難であることから、特に高い信頼性が求められる部位とされています。地上であれば、雨漏りがしても足場を組んで補修が可能です。しかし、地下は違います。一度埋め戻してしまえば外側からの手直しは物理的に極めて難しく、土中からは常に地下水圧がかかり続けます。
私たち日本ザイペックスは、決して大きなメーカーではありません。しかし、だからこそ現場の最前線で泥にまみれ、「どうすればお客様の大切な資産を水から守れるか」を真摯に考え続けてきました。本記事では、公的な仕様書や指針を拠り所としながら、事前の地質調査に基づく湧水条件に応じた防水設計の選択肢と、漏水リスクを減らすための考え方をお伝えできればと思います。
第1章:なぜ、地下防水は「従来工法」だけでは難しいのか
地下防水の設計において、「外防水工法(シート・塗膜などのメンブレン防水)を外側に貼れば絶対に安心」という考え方は、現場の複雑な現実と少し乖離してしまうことがあります。
教科書的な理論では、水圧がかかる地下防水には「外防水」が有効とされます。しかし、『建築工事標準仕様書』(※参考2)でも触れられている通り、コンクリートの不具合(ひび割れやジャンカ[骨材が露出した蜂の巣状の空隙]等 )と防水層の不具合が重なったとき、漏水は発生してしまいます。
特に地下防水で厄介なのが「防水層の裏に回る水」です。施工時のピンホールや地震の挙動で防水層がわずかでも破損すると、そこから浸入した水が防水層とコンクリートの付着面を走り、入口とは全く別の脆弱部から室内へ漏水します。こうなると、水の入口を特定して止めることは非常に困難です。 そのため、地下防水においては「貼って防ぐ」ことに加え、コンクリート躯体そのものを防水層化させる「コンクリート 躯体防水」という発想を組み合わせることが、リスク回避の有効な手立てとなります。
第2章:「仕様」から「要求性能」へ――公的仕様書が求める水密性
ここで少し、防水設計の根幹に関わるお話をさせてください。 かつての建設業界では、「この材料を何ミリ塗りなさい」という「仕様規定」が主流でした。しかし近年は、『建築工事標準仕様書』(※参考2)をはじめとする公的な基準において、「要求性能(性能規定)」という考え方が重視されるようになっています。
要求性能とは、「最終的に建物が『水が漏れないこと(水密性)』『何十年も持つこと(耐久性)』という性能を満たしていれば、そのためのアプローチ(材料や工法の選定)は現場の条件に合わせて最適化してよい」という合理的な考え方です。 地下構造物において求められる最大の要求性能は、当然ながら「地下水を通さないこと」です。これを実現するための手段として、外側からのバリアだけでなく、躯体そのものを改質して水を通さなくする躯体防水が、要求性能を満たす理にかなった選択肢として評価されるようになっています。
第3章:湧水条件に基づく「防水設計」の選択肢と選定フロー
過剰な仕様はコストを圧迫し、安易な仕様は将来の事故を招く恐れがあります。事前の地質調査に基づく「地下水位(設計水圧)」や「湧水条件」に応じた、合理的な組み合わせ(選定基準)の例をご紹介します。
【低水位・湿潤】コンクリートの緻密化と「触媒」の力
- 条件: 常時地下水位は底版より低いが、土壌湿気や一時的な水位上昇の影響を受ける現場。
- 対策例: 「ザイペックス・アドミックス(混和型躯体防水工法)」による躯体の水密化
この条件下で重要になるのは、漏水だけでなく微細なひび割れや湿気の低減です。ザイペックスを混和したコンクリートは内部で結晶増殖による緻密化が進行し、初期のマイクロクラックを自己修復で抑えたり、空気中の水分を消費しながら水和反応を活性化させるため地下特有のジメジメを緩和する効果も期待できます。
ここで、私たちの技術の「核」についてもう少し深く触れさせてください。 一般的に防水材や混和剤と聞くと、「成分そのものが固まって防水層を作る(=反応が終わる)」ものを想像されるかもしれません。しかし、ザイペックスは異なります。ザイペックス自体は、コンクリート内部の未水和セメントと水を反応させるための「触媒」として働きます。
コンクリートの中には、水と反応しきれなかったセメント成分(未水和セメント)が長期間残存しています。ザイペックスはこの未水和セメントに働きかけ、水が存在する環境下で触媒反応を起こし、不溶性の結晶を生成して毛細管空隙を埋めていきます。あくまで「触媒」であるため、ザイペックス自体が消費されて無くなることはありません。つまり、水が存在する限り結晶化のプロセスが終了せず、将来微細なひび割れが生じても、再び水と反応して自己修復を続けるという特性を持っています。このメカニズムこそが建物の資産価値を長期にわたって守る力となります。
【高水位・高圧】「多重防御」と「裏面排水工法」によるリスク管理
- 条件: 地下水位が高く、常時強い水圧がかかる現場(大深度地下、臨海部など)。
- 対策例: 「躯体防水」+「外防水工法」、および「裏面排水工法」の併用
公共工事などの重要構造物では、「多重防御(Redundancy)」の考え方が推奨されます。躯体そのものをザイペックスで水密化しつつ、外防水を併用することで、万が一どちらかが突破されても大量漏水を防ぐ「二段構え」を作ります。
さらに湧水量が多い過酷な現場では、これらに加えて「裏面排水工法(ドレーンによる減圧)」を併用することが極めて有効です。 地下水圧(浮力)というのは想像以上に強大なエネルギーを持っています。建物を下から持ち上げようとする力や、壁面を押し潰そうとする力が常にかかり続ける状態では、どんなに強固な防水層でも限界が来る可能性があります。 そこで、防水層の裏側(土との間)に水路(ドレーン材)を設け、意図的に水を釜場(ピット)へ導いてポンプで排水してやることで、水圧そのものを逃がします。水圧が減圧されれば、防水層や躯体にかかる物理的な負荷は劇的に下がります。「水と無理に戦わず、うまく逃がす(いなす)」。これもまた、地下の自然環境を熟知した上で導き出される、大切な防水設計の思想の一つです。そして、ザイペックスのようなコンクリートそのものを防水層化する躯体防水工法には、水圧に強いという大きなアドバンテージがあります。
第4章:漏水の9割はここで起きる!「弱点」の確実な納まり
コンクリート壁の真ん中から水が漏れることは稀です。漏水のほとんどは、構造的に不連続となる「ジョイント部分(打ち継ぎ・セパレーター跡)」や、予期せぬ「ひび割れ」に集中します。『公共建築工事標準仕様書』(※参考3)においても、これらの処理は厳格に規定されています。
アキレス腱となる「打ち継ぎ」と「セパレーター」の止水
コンクリートの硬化収縮などにより、新旧コンクリートの界面にはどうしても微細な隙間が生じやすくなります。『建築工事標準仕様書』(※出典2)の解説では、打継部には止水板等の使用を検討すべきとしつつも、「適切に施工しないとかえって防水上の弱点になりかねない」と強く警告しています。また、型枠を固定するセパレーターの周辺も、コンクリートの沈降による空隙ができやすいと指摘されています。
そのため私たちは、不確実性の残る物理的な「止水板」の設置だけに頼るのではなく、これらの計画的な弱点に対して独自の複合処理を行います。打継部の入隅やセパレーターの穴に対して、急硬性止水材「パッチンプラグ」を充填して物理的な止水ラインを構築し、その上からザイペックス処理(塗布)を施すことで、躯体と一体化した強固な防水バリアを形成します。
(※なお、新築時の設備配管の貫通部については原則として設備業者様による適切な処理にお任せし、私たちは躯体そのものの弱点克服に注力します。)
「ひび割れ・欠損部」への高精度な注入・充填アプローチ
現場で避けられない「ひび割れ(クラック)」や「ジャンカ(豆板)」などの欠損部からの漏水に対しても、ザイペックストレーナーの専門技術が活きます。
漏水を伴うひび割れに対しては、ただ表面をなぞって塞ぐようなことはしません。ひび割れに向けてドリルで斜めに削孔し、逆止弁を備えた専用プラグ(注入プラグ)を打ち込みます。そこから躯体の深部に向かって、水と反応して発泡する湿気発泡ウレタン「ウルトラペースト」を高圧注入し、水みちを根本から遮断します。
さらに、コンクリートの欠損部には「パッチンプラグ」や市販の止水モルタルを用いて確実に断面修復を行います。そしてすべての仕上げとして表面にザイペックスを塗布し、物理的充填と化学的改質の「二段構え」により、決して水を通さない強固なディテールを構築しています。
第5章:「材料」だけでは建物を守れない――責任施工の矜持
どれほど優れた材料でも、現場の状況に合わせた施工ができなければ、その性能は十分に発揮されません。特に地下防水においては、「材料」と同じくらい「施工」が命です。
私たち日本ザイペックスは、材料を販売して終わりではなく、全国の「特約店(認定施工店)ザイペックストレーナー」とともに、現場での施工までをセットでご提供することにこだわっています。彼らは単なる作業員ではなく、ザイペックスの触媒メカニズムを熟知し、現場の変化に即座に対応できるプロフェッショナルです。
たとえば、地下深くの現場で激しい湧水に直面したとき。ザイペックストレーナーは、ただ闇雲に止水材を詰め込むようなことはしません。「水圧が強すぎる。このまま塞いでも別の場所から噴き出すだけだ」と瞬時に判断し、まずは水抜き用のパイプ(ホース)を挿入して一時的に水圧を逃がします。水流がパイプに集中し、周囲のコンクリートの圧力が下がったのを見計らってから、急硬性のパッチンプラグを周囲に打ち込み、最後にパイプを引き抜きながら穴を完全に封鎖するという、非常に高度な手技を行います。
その日の現場の状況、気温、コンクリートの湿潤状態を見て、自律的に判断し、施工する。「もし水が止まらなかったらどうするのか?」という問いに対し、「私たちが責任を持ってお手伝いします」と言える体制を築くこと。
私たちのような小さな企業ができる最大の貢献は、魔法のような材料を売ることではなく、この「人の技術」と「製品の化学」を融合させて、お客様の建物を長期にわたって守り抜くことだと信じています。地下の湧水や厳しい納まりでお困りの際は、ぜひ選択肢の一つとしてご相談いただければ幸いです。
【参考文献】
- 参考1:『建築工事標準仕様書・同解説 JASS 8 防水工事』日本建築学会
- 参考2:『建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄筋コンクリート工事』第23章「水密コンクリート」 日本建築学会
- 参考3:『公共建築工事標準仕様書(建築工事編)』第6章「鉄筋コンクリート工事」 国土交通省

